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Story

Episode 02
日常

『……のほぼ飢餓に近い食糧の不足を受け、その数は500万人におよび国連の世界食糧計画は全世界に対しメッセージを発信し続けて居ます。飢餓の危機にある人口の数は世界43カ国で4000万人にもおよび――『アザラシの赤ちゃんがお披露目されましたぁ!とっても可愛らしいこの親子は水辺でお昼寝。見物に来た人々もスマホを構えて写真を撮っています』

 どこかの馴染みがない国で大変な食糧不足が起きていることを凄惨な映像と共にニュースは伝えていた。難しい事はわからないが、どうやら戦争なのか政治的な対立による問題が大きいらしい。しかしニュースではこの状況をなんとかしなければいけないという事を必死に訴えている人が居たが、その人は飢餓の原因に影響を与えた国のバッジをつけていた。
 母親がチャンネルを切り替えたことでわたしの意識は戻ったが、微笑ましい情報を伝える番組が流れて居ることに気づき、先程までの世界的な飢餓の情報とアザラシの赤ちゃんを撮っている人々の情報が同じ箱から流れてくることに途轍もない違和感を感じた。

「リン。お母さん今日は遅くなるけど、お父さんが早く帰ってこれるみたいだから、だから2人で何か頼んじゃってね。何が食べられるかお父さんに聞いてね」
「うん」
 チューブから出る減塩バターの量が思ったよりも多く、少し慌てながらも少し生の感じが残るパンに塗りたくったりしながら、昨晩と全く同じ台詞を伝える母に生返事を返した。
「んー…このバター使いづらい…」
「お父さん最近体重気にしてるし、それにそのバター安いのよ」
「安いんだ」
 じゃぁこの安いバターならわたしでも買えるかな。それをあのニュースの人々に渡したらすごく喜ぶのかな。もしかしたらこのバターを渡したことであのバッジの国の人から直接声かけてもらえるのかな。誰か知らないけど。『偽善者め、何も知らないくせに』。ごめんなさい。
 脂っこいパンを齧りながら、かわいいアザラシを少し彩度の高いモニター越しに眺めながら改めて再認識した。やはり、わたしの生きているこの世界では一般的にはかわいい存在の写真を撮ることの方が普通なのだ。

 自宅から学校の最寄りまではバスで通学している。この間は1人で居られるから気が楽だった。バスから降りると電車組の群れの中に混ざらなければならない。あまり目立ちたくない私は群れの一員ではないが何食わぬ顔をし、その群れに紛れ込む。

 そこから先はいつものように退屈な時間が始まる。
 クラスに入ると席が近い女の子からあまり興味のそそられない話題を振られ、なるべく無難な回答をしてお茶を濁す。授業も大して興味ないが赤点を取って学校から家族から何か言われることが怖くて、最低限の勉強だけは済ます。かなり苦痛である。
 昼休みに入れば、使用禁止の校則があるスマートフォンを机の下に隠しながらイヤホンを片耳だけつけてSNSをひらいた。あの男子たちのように堂々とスマホ出して笑い合う勇気もわかず、かと言ってあの女子の様にしっかりと校則を守り凛々しい存在になることもできず、コソコソと隠れることしか出来ない私は、スマホの画面でタイムラインに流れているお笑い芸人の動画を見ながらクスリと笑った。

  • illustration
    神谷雄貴